今年のアカデミ−賞最終結果

 結局、今年のアカデミ−賞は、クリント・イ−ストウッド監督の「ミリオンダラ−・ベイビ−」が作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞と、主要な4つの部門でオスカーを獲得しました。オスカ−の数の上では「アビエイタ−」が5つで多いけれど、主要部門は助演女優賞だけなので、どうしても「ミリオンダラ−・ベイビ−」が勝ったという印象は否めない。
 調べてみると、クリント・イ−ストウッドもすでに監督作品が20作を超えています。
 彼は俳優としてセルジオ・レオ−ネ監督のマカロニウエスタン3作で名をあげてハリウッドに凱旋したものの、はじめ1年ほどはさしたる役もつかずにいました。
 そんな彼を登用してスタ-に育てたのがドン・シーゲル監督です。ドン・シ−ゲル監督とクリント・イ−ストウッドは5本の映画でコンビを組みましたが、なかでも「ダ−ティハリ−」はクリント・イ−ストウッドの代表作の一本となりました。クリント・イ−ストウッドの監督業の手ほどきもドン・シーゲル監督から受けたといえます。師匠がしっかりしているからか、クリント・イ−ストウッド監督作はどれもがっちり仕上がっていて安っぽい演出は見られません。きっと「ミリオンダラ−・ベイビ−」も秀作なのだろうと思います。
 しかし、です。クリント・イ−ストウッドは1992年に「許されざる者」ですでに一度監督賞を取っています。「許されざる者」は監督賞だけではなく作品賞にも輝いています。(ただし、これまでのアカデミ-賞において、ほぼ8割方は、作品賞に輝いた映画の監督が監督賞も手にしているので、両賞同時に取ることはめずらしいことではありませんが。)今回は監督賞をアカデミ-賞に縁遠いマ−ティン・スコセッシに取らせたかったです。
 クリント・イ−ストウッドは、どうせ取るなら主演男優賞を取ってもらいたかった。彼のアメリカ映画界への貢献は計り知れないものがあるのに、アクション・スタ−のイメ-ジのせいかこれまでアカデミ-主演男優賞にノミネ-トされたのは「許されざる者」と今回の「ミリオンダラ−・ベイビ−」だけという寂しさで、それも74歳という歳を考えると、これから先主演男優賞を取る機会があるかどうか。
 クリント・イ−ストウッドと同じように、スタ−としてアメリカ映画界に多大の貢献をしながら、演技のほうでオスカ−をもらえず、しかしながら演出家としてオスカ−を手にしている人物にロバ−ト・レッドフォ−ドがいます。
 彼も1980年に「普通の人々」で作品賞と監督賞を取っていますが、演技の賞は取っていません。
 ただし、彼の場合は「アカデミ−賞何するものぞ」的雰囲気があって、ふだん「牧場経営と若手映画人育成が主な仕事で、映画出演はアルバイトです」と言ってそうな感じで、「彼にオスカ−あげなきゃかわいそう」という気持ちが湧いてこないのが幸いです。


 今回、功労賞がシドニ−・ルメット監督に贈られたのですが、この監督がまだ80歳だと聞いて少し驚いてしまいました。
 「すると『十二人の怒れる男』(1957年)を演出した時は30歳そこそこだったのか!」という驚きです。
 30歳そこそこの人間にこれだけの問題作とこれだけの役者の演出を任せきるアメリカという国のシステムと、シドニ−・ルメットという監督の才能とに感嘆してしまいました。


 シドニ−・ルメットにしてもマ−ティン・スコセッシにしてもニュ−ヨ−クを中心に活動する「ニュ−ヨ−ク派」なのでアカデミ−賞がとりにくいのだという人がいます。たしかにそういうことはあるのかもしれない。ア−サー・ペン監督もそういえばアカデミー賞は取っていません。
 とはいってもそのハンディは少しのもので、これまで外国籍の監督やポルノ出身の監督でも監督賞を受賞してきているのだから、もっと大きな要因は運・不運ですよね。
 その運・不運で俳優や監督のこれからの出演料や演出料が大きく左右されるのだから、アカデミ−賞というのもアメリカン・ドリ−ムの一面をもつ反面、やっかいなしろものではありますな。