追跡”第三の男”

台風24号が日本に来ずに済みそうなのでホッとしていたら、今度は新潟の地震のニュ―ス。
日本は春、夏、秋、冬の季節がハッキリ分れていて、なおかつ、基本的には温帯なので、こんなすばらしい国はないと常々思っている者だけど、台風や火山噴火や地震の多さにだけは閉口してしまう。
被災地で被害にあわれた皆さん、気を落とさずに頑張ってください。
今現在、同じ日本の中に、明日がどうなるか心配しながら夜を過ごしている人がいっぱいいるというのに、お気楽に趣味の話をするのも少し気が引けるのですが、三日も日記を休んでいるし(台風被害にあわれている人たちに殉じてではなく、私の怠惰のせいです)、割り切って書きます。
21日の夜、NHKデジタル・ハイビジョンで「追跡”第三の男”」という番組をやっていました。映画「第三の男」(1949年、キャロル・リ−ド監督)の製作裏話集です。
私は、映画「第三の男」はシナリオ技巧、撮影、演出、どれをとっても超一級で、もし映画制作者の養成口座を開くのなら、そのテキストには最適の一本だと思っている人間なので、1時間半この番組に見入ってしまいました。
デビッド・O・セルズニックがこの映画の製作に関わっていたことや、ガイ・ハミルトンが助監督を務めていたことは、この番組を見るまで知りませんでした。
それにしても、キャロル・リ―ド監督がセルズニックの注文にハイハイと応じなくてほんとうによかった。セルズニックというプロデュ−サ−は「風と共に去りぬ」を製作したアメリカの大プロデュ−サ−だけど、アメリカ的に、芸術性などよりも興行的な成功を一番に考えてる人だったので、この人の言うとおりに作ってたら後世に残る名画が一本減っていたかもしれない。
後にリ−ド監督は「華麗なる激情」という映画でシスティナ礼拝堂の天井画を描くミケランジェロとその依頼主教皇ユリウス2世との確執を描いているけど、これは映画監督とプロデュ−サ−との関係を比喩したものでしょうね。映画的にはたいしたものではなかったけど。
この番組では触れてなかったけど、キャロル・リ−ド監督は「第三の男」の二年前に「邪魔者は殺せ」という映画を撮って名を知られた監督です。「邪魔者は殺せ」では確か、バックの音楽にロンドン交響楽団を使用して映画を盛り上げたけど、「第三の男」では一転、チタ−という当時あまり知られていなかった民族楽器の演奏のみでバックを支えるという変わり身を見せています。華麗ですねえ。
オ−ソン・ウェルズのわがままな態度は想像も出来るものでしたが、だからといって、腹立ちまぎれにこの人の役を他の役者にふっていたら、この映画は絶対に出来が落ちていたでしょう。
有名な、大観覧車の中での皮肉の効いたセリフは、ウェルズの考えたものらしいけど、このセリフだけでも、彼の出演料10万ドルの値打ちがあったんじゃないでしょうか。
ラストの墓地でのシ−ンもこの番組で久しぶりに再見しましたが、ウ〜ン、これもいいなあ。
はるか向こうからアリダ・ヴァリがこちらに向かって歩いてくる。こちらではジョゼフ・コットンが話し掛けるつもりで道の脇で待っている。しかしアリダ・ヴァリジョゼフ・コットンには見向きもしないでそのまま画面の前へと去ってゆく…。
並みの監督の演出だったら、このシ−ン、女性は画面手前から向こうに向かって去っていきますよ。それをキャロル・リ−ド監督は逆にしてある。女性が向こうから男性の待ち構えているこちらに向かって歩いてくるものだから、観客はどうしても「この二人は話を交わして仲直りするのだろう」と考えてしまう。その観客の意識に肩透かしを食らわせる形で女性はそのまま前へと去ってしまうので、観客にはより深い余韻が残るわけですね。
そうでなくても怠惰な人間なのに、こういう番組を毎日のように放送された日にゃあ、見るのに忙しくって、こんな日記など書く時間がとれなくなってしまいそう。

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