南方熊楠

天性物覚えが悪く、日記に、むかし本で読んだ話を書こうと思っても、なんの本で読んだのだったかがトンと思い出せないことばかり。
読み違いや記憶違いがあってはいけないと思うと、結局、書くことが出来ない話が多々あります。
そんな時はいつも「せめて南方熊楠の十分の一の記憶力があれば」と思う。博覧強記の粘菌学者南方熊楠のことは、三十年あまり前に平野威馬雄さんの本を読んで初めて知りました。
その平野さんの本のことは、当時のTBSラジオで永六輔さんが紹介していて、興味をもったのです。
そのころは、平野威馬雄さんの娘さんの平野レミさんが、TBSの昼の番組で「おとこがでるか、おんながでるか」なんてやっていた時代です(五十代以上の関東在住の人以外は何のことだかわからないでしょうが…)。まさかあの平野レミさんが和田誠夫人となって華麗な料理本を何冊も出すようになるとは、思いもよらなかったことでした。
南方熊楠も、当時は私が知らなかっただけでなく、日本国じゅうで無名だったと思います。
この後、少しして、平凡社が彼の全集を出し、また和歌山(南方熊楠の出身地です)生まれの作家が相次いで南方熊楠の事を本に書いたりして、少しづつその名を知られるようになってきたところでしょう。
二十年ほど前、仕事で和歌山県田辺市を訪れたことがあり、そのとき南方熊楠の住居をぜひ見たいと思ったものの、時間があまり取れなくて、結局、見つけ出せずに田辺の町をあとにしました。今でも残念に思っています。
ところで、その南方熊楠の名前ですが、私はずいぶん長いあいだ、「熊楠」を「くまくす」と読むものと思っていました。初めてその名前を知った平野威馬雄さんの本の題が「くまくす外伝」だったからです。「くまぐす」と濁るのだと知ったのは、二十年経ってからでした。内田春菊さんのマンガの題に「クマグス」とあるのを見てアレッと思った記憶があります。
1991年に平野さんの本は「ちくま文庫」に収録されましたがそのときには「くまぐす外伝」と改題されていました。
この本をインタ−ネットで検索してみると、「くまくす外伝」と入力すると1972年刊の濤書房版の本だけが出てきて、「くまぐす外伝」と入力すると1991年刊の「ちくま文庫」版がでてきます。