さぬきうどん②

さとなお氏の「うまひゃひゃ さぬきうどん」は1998年に「コスモの本」から出版され、その面白さが認められて2002年に光文社知恵の森文庫に加えられました。前述のとおり、中身は彼の運営するホ−ムペ−ジ「さとなおの極私的おいしいペ−ジ」に1997年に連載されたものです。これも前述のとおり、このホ−ムペ−ジはいまでも「WWW.さとなお.COM」http://www.satonao.com/と名を変えて続けられており、そのアクセス数は1995年の開始からで826万件を超えています。
かたや麺通団の「恐るべきさぬきうどん」は香川県のタウン誌「月刊タウン情報かがわ」に1989年より「ゲリラうどん通ごっこ」の題で連載開始。1993年タウン誌版元のホットカプセルhttp://www.hotcapsule.co.jp/から第1巻発売。現在第5巻までが出版されています。ホットカプセル社は香川の地方出版社なので「出版されるやいなや爆発的に売れ」たわけではなく、ジワジワと部数を伸ばして、その知名度を上げていった本です。その面白さに目を付けた新潮社が2001年に第1巻から第4巻までを編集しなおして「新潮OH!文庫」シリ−ズに「麺地創造の巻」「麺地巡礼の巻」の2巻本として収録し、2003年に晴れて(?)本家本流の「新潮文庫」に加えられた叩き上げの本。
さとなお氏は東京生まれの東京育ちだが仕事の関係で15年ほど神戸に住んでいた人。麺通団の構成メンバ−は香川在住の人たち。県外人の書いた「うまひゃひゃ さぬきうどん」と県人の書いた「恐るべきさぬきうどん」の二著作はその文章のタッチが驚くほど似ています。
ともに、評判の店を著者が訪ねてうどんを食べてみるという「探訪記」の形態をとっていて、その文体は読者が思わず抱腹絶倒してしまう、上方漫才のノリの本です。
さとなお氏自身「うまひゃひゃ さぬきうどん」のなかで書いていることですが、彼は数年先行して出版されていた「恐るべきさぬきうどん」を愛読しており、探訪する店選びとか文体などはだいぶん影響を受けたのだろうと思われます。
ただ「恐るべきさぬきうどん」は発表誌からも明らかなように読者対象が香川県人だったのに対して、「うまひゃひゃ さぬきうどん」のほうはインターネット上で最初から全国の人に読んでもらうことを意図しています。
いずれにせよ、この二作が選んだうどん屋は、小奇麗で品のいい店構えのうどん屋ではなく(そういう店も入ってはいますが)、一見納屋と見まがうような、近所の人たちにとったら、うまさはここに勝るうどん屋はないと思いながらも県外の人に薦めるにはちょっとカジュアルすぎると思っているような店が中心でした。
いわば、一流レストランの、表のメニュ−は無視して、裏の、舌の肥えた料理人たちがふだん店で食べる「まかない飯」に的を絞って紹介する。そういうことをやってのけたのです。
読者はゲラゲラ笑って本を読みながらも、その「ディ−プな店」の紹介を見落とさなかった。
それが今の讃岐うどんブ−ムの発火点になっています。
香川県内にはうどん屋は700軒からあるそうですが、小奇麗で品のいい店など少数で、数多くの店がそこらの飯屋と同じ構えで営業しているためか、「うどん」が県外の人に胸をはって自慢できる食文化であるとの認識が香川県人にも薄かったフシがあります。
この二作品は「ろくすっぽ看板すら掲げていない」ような店に光を当て、多くの紙面を割いて面白おかしく紹介することで、全国の人たちに「讃岐うどん」を底辺から知ってもらうことに成功すると同時に、香川の人たちにも「もっと『うどん』のことを全国に自慢していいんだよ」と教える役目も果たしえたと思います。
讃岐うどん」ブ−ム到来に大きく貢献したこの二つの本は高く評価されてしかるべきだと思います。
香川県も二つの本の作者に対し「名誉県民賞」とか「県民栄誉賞」といった表彰を行なっていいのではないかと本気で思ってます。