インタ−ネットで古本屋さんやろうよ!

 この「インタ−ネットで古本屋さんやろうよ!」ASIN:4479391037、私が古本屋を開くにあたって、たいへんお世話になりました。
 著者は芳賀健治さん。2001年7月からオンラインで「古本うさぎ書林」http://www.miyukisha.co.jp/huruhontop.htmlというお店を経営されている方です。
 この本を出版したのが2003年3月。芳賀さんはオンライン古本屋の立ち上げから一年半の間の経験とノウハウを惜しげもなく盛り込んでこの本を作られています。
 この本には、古物商の許可の取り方から商品の仕入れの方法、送品の発送の仕方から代金回収の仕方まで、あらゆることがたいへん具体的に書かれていて解りやすい。例えば「仕入れた商品の値札を剥がすのには丸善から発売されている『はがしっこシリ−ズ5値札はがし』がおすすめ」といった具合です。
 もちろん、いまの私の机の上には「はがしっこシリ−ズ5値札はがし」が、ちゃんと置いてあります。
 いまオンライン古本屋を開きたいと考えている人にはイチオシの本です。
 また芳賀さんは、この本の中で「古本うさぎ書林」のオ−プンから一年半の間のひと月ごとの仕入れ冊数とその額、および売上冊数とその額を公表されている。この「公表」はそのあとも「古本うさぎ書林」のサイト内の「日記・古本せどり暮らし」のなかで引き続いて行なわれています。
 商売人が仕入額と売上額を公表するなんて、まるで手品の種明かしをするようなものです。(正確には仕入れに要した電車代やガソリン代、梱包資材費、足が出た部分の送料などの販管費だけは非公表なので、かろうじて謎の部分を少しだけ残していますが。)
 でも、この数字を公表して「古本うさぎ書林」の現在をさらけ出しているので、「日記」に書かれた店主の芳賀さんの思考のゆらぎがたいへんよく伝わってきます。
 例えば、売上高を増やすために大型ショッピングモ−ルへの出品を強化しなければと考えられながら、もう一方で古本販売の楽しさを失わないために自身のサイトでの販売強化の方策をあれこれ考えられたり、商品の回転効率を高めるために「在庫を圧縮しなければ」と書かれたかと思うと「売上を上げるためには商品を増やさなければ」と書かれたりしている。
 これらの悩みはなにも仮想店舗で行なう古本屋さんに限った悩みではなく、お店を持つすべての商売人の永遠の悩みですよね。そんな悩みを芳賀さんは「日記」の中で吐露している。なにも「ハムレット」のような大仰しい台詞で悩みを書いているわけではありませんが、全てを包み隠さず打ち明けると言う姿勢で「日記」を書いているので、自然気持ちが伝わってきて「ああ『先生』(『先達』と言うほうが適当でしょうか)も悩んで色々考えながらお店をやってるな」と判ります。
 お店づくりの教科書として「インタ-ネットで古本屋さんやろうよ!」を読んでいたときは思わなかったのですが、その続編として「日記・古本せどり暮らし」を読み続けてきて判ったことがあります。
 もしこの本の題名が「インタ-ネットで古本屋さんを作る方法」だったり「こうすればインタ-ネットで古本屋さんができる」だったら、つまり「上」から教えを垂れる式の入門書だったら、芳賀さんのお店のサイトの掲示板にあれだけ「私もあの本に啓発されて古本屋始めました(あるいは始めようと思います)」という投稿はこないだろうし、私もこの文章は書いてなかったでしょう。
 「古本屋さんやろうよ!」と呼びかけるかたちの題名にしたところに芳賀さんの考え方・姿勢がいちばんよく出ていると思うのです。
 「自分もこれからあれこれ迷いながらお店を経営してゆくけれど、どうです、あなたもこの世界に飛び込んで私と横に手をつないで一緒のことをやっていきませんか」
 そんなメッセ-ジが多くの人のやる気を奮い立たせたのだと思う。
 「インタ−ネットで古本屋さんやろうよ!」の本は、これから先も私の教科書・参考書として身近に置いておきますので、少なくとも「古本屋グラッパhttp://grappa-bの店の棚には並びません。 手に入れたい方は町の本屋さんかネットの本屋さん(上のASINをクリック)で買ってください。